ICT土木による業務改善にチャレンジ。
Introduction
2014年、ユウテックとして、自動車専用道路(一般国道)では初となる熊野尾鷲道路(Ⅱ期)の新設工事を受注した。この受注を機にユウテックは県内の土木建設業の先駆けとして「ICT土木」を積極的に導入することを打ち出した。「ICT土木」とは、ドローンやレーザースキャナーによる3次元測量やICT建機を活用することにより現場の省力化、工期短縮、施工精度の向上による高品質化を図るもので、慢性的に人手不足に悩む土木建設業には是非とも導入したい技術である。ICTはこれまで膨大な施工日数や人員、技能労働者の経験が必要だった工程を情報処理技術を活用して大幅に短縮することが可能となるもので、その処理工程には必ずしも土木施工に関する技術と経験を必要としないことが今までには無い取り組みなのです。ここでは事業開始後、現場全体の管理とドローン操作で事業進行に取り組んだ二人の社員にフォーカスして、ユウテックの「ICT」への取り組みを見てみたい。
Project Member
プロジェクト担当
ユウテック・工事部
Naka Yuushi
中 裕士41歳【監理技術者(監督)として全工期を担当】
琉球大卒・一級土木施工管理技士
ユウテック・総務部
Nomura Yuuki
野村 勇気33歳
琉球大卒・ドローン操作歴3年
今回は、プロジェクト(工事)の現場施工と計画段階から導入されているICT土木(ドローンや建機)に関連した視点でプロジェクトについて、同じ琉球大学を卒業された現場所長(監督)・中様とドローン操作で現場にかかわりのある総務・野村様にそれぞれお話をお伺いいたします。
プロジェクト概要
【事業名】 42号熊野尾鷲道路(Ⅱ期)工事
【工期】
平成26年度 | 42号尾鷲北地区取付道路工事 | 2014年09月~2015年12月 |
平成27年度 | 42号坂場西地区道路建設工事 | 2016年03月~2017年03月 |
平成29年度 | 42号尾鷲南地区道路建設工事 | 2017年05月~2018年03月 |
令和2年度 | 42号熊野尾鷲道路改良工事 | 2020年04月~2021年10月 |
熊野尾鷲道路(Ⅱ期)の尾鷲南IC-尾鷲北IC間(5.4km)は、現在供用中の熊野大泊IC-尾鷲北IC工区(全24km)の最終工事区間で、これにより三重県区間(79km)の勢和多気から熊野までが自動車専用道路としてつながる。
この近畿自動車道紀勢線の延伸は、尾鷲-熊野間の時間短縮を含めた東紀州エリアの活性化だけでなく、災害時の広域ネットワークとして強化される全線開業に大きく前進することになり、現在事業中の熊野道路や熊野と紀宝を結ぶ三重県側の最終区間の事業着手を推進することとなる。
今回は、プロジェクト(工事)の現場施工と計画段階から導入されているICT土木(ドローンや建機)に関連した視点でプロジェクトについて、同じ琉球大学を卒業された監理技術者(監督)・中様と現場に関わりのある総務・野村様にそれぞれお話をお伺いいたします。
大型案件ではじめて「ICT」を導入。
まずこの現場での役割と管理で苦労されたことは何でしょうか。
今回開通前の最後の工事では施工区間が長く、トンネル工事や橋梁工事、舗装工事等色々な業種の施工会社が現場に入っていました。それをうまくまとめて工程全体を進めていくのが私の仕事で、業者間の調整には最も気を遣いましたね。
開通時期が決まっている中で複数の工程が同時に走るのをうまくコントロールして全体を間に合わせることは普段の現場管理でも行いますが、規模がいつもの何倍もの大きな現場だったので、今回は複数名の施工管理担当を置きました。
このプロジェクトにもICT土木は導入されましたか?
はい。着工前の段階からICT建機による現場施工や出来形測量までいくつかの場面で導入しました。
私自身もドローン操縦はやりますが、一度失敗して壊したことがあるので最新鋭機種は触らせてもらえません(笑)
ドローン(UAV※1)は、測量設計や出来形管理、進捗管理の撮影にも多用しました。測量設計においては、従来3人で1週間かかるところを2人で1日あれば終えることもできます。またICT建機(MG/MC)による掘削施工や盛土作業などを行いました。
※1. UAV(Unmanned Aerial Vehicle=無人航空機)
では、随分省力化には貢献したのでしょうか?
はい。UAVによる3D測量や出来形管理にはかなりの成果があったと思います。
作業中の撮影を繰り返していくことで、作業後に見えなくなる(不可視部)部分の記録も俯瞰データとして残せますので、全体の進捗や出来形管理はかなりわかりやすくなりました。
また、ICT建機による掘削も設計どおりの精度を出すことなど従来の人力より早く正確に行えることは確かですし、ベテラン重機オペレータでなくても施工できるなど現場の省力化に役に立つものとの認識を持ちました。
ICTの課題を正しく理解することが効果を高める。
何か課題はありましたか?
そうですね。UAV測量について言えば、実際にUAV撮影で得られたデータを解析して使えるデータにすることが最も大事なことなのですが、私たちのようにずっと現場に携わってきたものがいきなりパソコンでデータ作成をしなければならないとなると、それなりの勉強をしていないと、とても1日ではできるものではありません。
また、ICT建機を使った施工においては、深い山中などではGNSS(GPSなどの人工衛星からの信号を用いて位置を決定する衛星測位システムの総称)が途切れる場合があり、システムが使用できないなど、やはり経験のある重機オペレータが必要になる場面があります。
他には、法面工事においてMC建機(マシンコントロール)を使用したところ、精度面は申し分ないレベルで仕上がりますが、使用するバケット(バックホウの先端部分)によって仕上がり面に差があるので、バケットの選択も重要な要素になります。このあたりは経験も必要になると思います。
それらの課題に対して何かお考えはありますか?
UAV(ドローン)に関しては、例えば測量撮影・データ解析ができるスタッフが現場のチームに加わってくれるととても助かります。それは常勤でなくても良いので必要な場面で手助けしてくれる形でもいいです。
今一緒にいる野村君のような本社の総務スタッフでも良いと思います。彼は普段現場の書類関係の作成をアシストしてもらったりしていますが、ドローン操作は私より慣れていて上手いので(笑) ついでにデータ解析もアシストしてもらえると現場は更に楽になります。
そういう意味では、ICTの導入効果を高めるためにどんな課題があってどうやって解決していくかを現場内だけでなく管理部門も含めて社内で共有し、正しく理解していくことが必要だと感じています。
なるほど。それは土木施工や測量の経験が無いスタッフでもやれる可能性があるということでしょうか。野村さんはそのあたりいかがでしょうか。
私は時々現場の進捗管理をドローンで撮影していますので、ドローンの操作自体はある程度できる自信があります。UAV測量の方法やデータ解析ツールについては、私の前任者が勉強して使いこなせるようになったので、次は私がチャレンジする番だと思っています。
今まで会社は工事部の現場担当者を中心に講習へ行かせてきましたが、今後は工事部以外の担当者にもチャレンジさせ、仕事の幅を広げていくのではないでしょうか。
野村さんから見てICTによって建設業界や仕事の仕方が変わる可能性についてどう思われますか? 例えば女性の進出や就業の可能性はいかがでしょうか?
ある程度年配の先輩方は、現場作業からたたき上げで重機オペレータや施工管理になっていらっしゃったようですが、最近では管理部門からICT土木を勉強して現場管理になった方もいますので、もし今後もそういったことが続いていけば、今までとは別の人材活用の方法にもなり、それは現場の省力化や工期短縮につながると思いますね。
それにドローン操作やICT建機自体のオペレーションには力が必要ではないので、女性でもチャレンジできると思いますし、チャンスはあります。さらに社内の分業を進めていけば、3Dモデルの作成やUAV測量の解析など内業に特化することもできるのではないでしょうか?
ICTで現場を楽にすることが目標。
ICTは土木業界変革のきっかけになるのでしょうか?
なるかもしれません。というかしなければいけないと思います。土木建設業界の慢性的な人手不足がこのまま続いていくと、私たちの持つ技術やスキルを受け継いでいく人が足りず、結果として防災工事や減災工事により国土を守り、地域の人々の豊かな暮らしを守ることも難しくなっていきます。
業界の人手不足の要因は色々あるとは思いますが、やはり3K(危険・汚い・きつい)であると思われていることが一番だと思いますし、私も年齢を重ねるごとに体力的なきつさを感じることはあります。
確かにICTにはまだまだ課題はありますが、この技術を自分たちのものにして現場が今より楽になり、効率化により休みが増えて3Kが新3K(給料・休日・希望)に変えていけば、どんどん若い人材や新しい人々が業界を支えていってくれるようになると信じています。
土木業界は男性社会ですが、女性が現場に進出するには周囲の配慮や認知も必要だと思います。業界全体が若返り活力を取り戻すためには、ICTが今後必要不可欠な技術となるでしょう。
プロジェクトが終わっての感想、今後の展望をお話しください。
最初の工事スタートから足掛け7年という長丁場のプロジェクトでしたので開通してホッとした反面、新たに始まる熊野道路や最終区間の熊野-紀宝間にも関わっていく可能性があり、そこでは今回のプロジェクトを踏まえてICTを本格運用できるようにしなければと考えています。
今回見えてきた課題を会社や業者間で共有し、本来の目的である現場の省力化や工期短縮を通して「現場を楽にする」ことを実践していきたいと思います。
それには野村君たち管理部門や新しくICTのスキルを身に付けたスタッフにも積極的に協力してもらい、力を発揮して欲しいと願っています。
私もUAV測量などもっと勉強して、現場の効率化に役立つICTのプロフェッショナルになれるように頑張りたいと思いますので、これからもご指導の方、よろしくお願いいたします。